胎児心疾患の診断と管理

1、胎児心疾患は診断できる

 胎児の心疾患が妊娠中に診断できるようになりました。だからと言って全ての先天性心疾患が胎内で診断されている訳ではありません。心疾患の程度によって、あるいは種類によって胎内診断されやすい疾患と、胎内診断が難しい疾患があります。じつは、重症の心疾患ほど胎内で見つかりやすく、単純な心室中隔欠損などは見つかりにくいのです。つまり、生まれてすぐに処置の必要な心疾患ほど見つかりやすいので、胎児の心臓を見る事には、充分に意義があります。

  もう一つ、どの程度の目的意識を持って超音波検査がなされているかにより、先天性心疾患の胎内診断率は大きく変わります。例えば、胎児の顔の写真を見せたり、性別をご両親に知らせる事だけを目的に超音波検査が行われている施設に胎児心疾患を診断できなかった事を理由に責任を追及しても仕方がありません。この点が、先天性心疾患の診断を他の産科超音波診断とはっきり分けて考えなければいけない重要な要素かもしれません。例えば、前置胎盤、胞状奇胎、羊水過多、羊水過少、無脳児、胎児水腫、胎児不整脈などは特に意識して診断をしなくとも、少し超音波画像になれた医師ならば、異常に気がつきます。ところが胎児心疾患の多くは、ある程度心疾患のスクリーニング、あるいは診断を目的に検査を進めないと心疾患の存在が明らかになりません。ここに胎児心疾患診断のあり方、あるいは教育を特別に考えなければならない理由があります。この証拠に胎児脳神経学や胎児呼吸器、胎児消化器と呼ばれる分野は未だ出来ていませんが、胎児心臓病学(Fetal Cardiology)と呼ばれる分野は既に提唱され、国際学会も組織されています。

  さて、わが国で胎児心疾患診断は、誰が行い、医療システムの中でどうあるべきかのディスカッションはまだありません。胎内で診断された多くの心疾患は、「何か変だ」と言う印象から「センター的病院紹介」を経て、真剣に診断しようと努力された症例がほとんどです。スクリーニングシステムが完備しているわけではありません。

 

2、何か変だ、に気づけば胎児心疾患が見つかる。  

1)心室への流入路が一つ

 心臓には部屋が4つあることは、小学生でも知っています。つまり、心房から心室への流入路は2つです。これが1つしか見えない時は明らかに心疾患があります(図-1

-1 この胎児の心室への流入路は1本です。カラーで表現されている部分は血流を表します。

 

 心臓の4つの部屋を写した断面を四腔断面と呼びます。おおむね左右対称で、心尖部は左側を向きます。この四腔断面を必ず見ることにするだけで、重症の心疾患の多くが気づかれます(図-2

-2 正常胎児の四腔断面像と血流です。両心房から両心室へ流入する血流がブルーで表現されています。正常では心尖部が左を向いている事も大切です。

 

 

 

2)巨大右房と三尖弁逆流

巨大な右房を見ることがあります。三尖弁の付着位置異常で有名なエプスタイン奇形と診断される事も多いようですが、巨大な右房により三尖弁が心尖部よりに見えてしまう事にもよります。このタイプの心疾患の血流を見ると、三尖弁逆流が強い事に気づかれます。(図-3)心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖を伴っている場合が多く、巨大右房の圧迫のため肺低形成にもなります。

-3 純型肺動脈閉鎖(心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖)。巨大な右房と右房内の三尖弁逆流が描写されている。

 

3)血流方向から判る心疾患

どこからどこへ血が流れているかを知ることは、先天性心疾患診断の基本です。胎児には成人にはないバイパス血流があり、そのバイパス血流の方向で心疾患の存在が判ります。特に動脈管は重要です。(図-4

-4 大動脈のアーチ(ピンクの血流)から逆に流れるブルーの血流が見えます。肺動脈が起始部で閉鎖しているため、動脈管の血流が逆流しています。

 

3. 胎児の病気が診断されたら

 

人間は誰でも病気になります。もともと病気を持って生まれてきた人もいます。幸い、今の人類はその病気を治す技術も持っています。胎児も人間である以上、病気にもなり、もともと病気を持っている事もありますが、生まれてからの人と同じように病気を治す事ができます。ごく一部の病気は胎児期に、多くの病気は生まれてから、また胎児である事をやめて、さっさと生まれてしまえば治る病気もあります。だから、胎児の病気を見つける事は大切な事です。それにより、たとえ病気の胎児であっても、病気を治してあげるチャンスを作ってあげる事ができます。

 

※この解説は、千葉喜英が「胎児心疾患の診断と管理」と題し、日本医師会雑誌2004,132,685-687 に投稿した内容をお医者さま以外にも理解していただけるよう書き換えたものです。