胎児水腫は、胎児の循環不全により胎児全体がむくんでしまった状態をいいます。よく話題になる胎児頸部の浮腫(NT)は胎児水腫の症状の軽い状態です。体全体の浮腫は、生まれてからのヒトにも起こり得ますが、生まれてからのヒトは肺で呼吸をしているため、からだ全体がむくんでしまうより先に、肺に水がたまる事により呼吸ができなくなります。この状態を肺水腫と言います。胎児は幸か不幸か、肺で呼吸をしていないため、胸腔内が水でいっぱいになっても生き続けます。腹水も溜まり、皮下浮腫で体全体が水ぶくれの風船のようになります。胎児水腫はこの症状を示す症候名です。胎児水腫に至る原因疾患はいくつかあります。まず、有名な疾患は、母親の血液型がRh陰性で、胎児がRh陽性の時に起こりえる胎児の溶血性貧血が原因となる胎児水腫です。免疫反応が原因なので免疫性胎児水腫と言います。Rh陰性のヒトが多い、ヨーロッパ諸国では、この免疫性胎児水腫を治療するためのセンターが作られました。胎児採血による診断と胎児輸血による治療を主な任務としています。同じような免疫性の胎児水腫は不規則抗体を持っているお母さんからも発生します。免疫性胎児水腫以外の原因による胎児水腫を非免疫性胎児水腫と言います。この中にはパルボB-19と呼ばれるリンゴ病原因ウィルスによる胎児感染もあります。この疾患は胎児の貧血を引き起こし、貧血による循環不全により胎児水腫をおこします。胎児輸血により治る機会がありますが、自然に治ってしまう例もあるようです。パルボB-19の感染病態はまだよく判っておらず、胎児にとって重症例も軽症例もあるようです。非免疫性胎児水腫のうち、胎児の心臓病に原因があるものを心原性胎児水腫と呼びます。形態異常の心疾患を原因とするものは治療や管理には困難を伴いますが、心拍数が普通より早い頻拍型の不整脈による胎児水腫は、胎内治療により治ってしまう事が知られています。原因不明の胸水による胎児水腫や、肺の中にできる嚢胞性の疾患などは、胸腔と羊水腔の間にシャントチューブと呼ばれるバイパスをいれる事により治療成功例があります。
胎児水腫は確かに重症の疾患ですが、治療成功例がある事、そして治療成功例の多くは正常の日常生活を送っている事が知られています。