流産とは胎児もしくは胎芽が生きたまま排出されるものだと信じられていた時代があります。そんなに古い時代の事ではありません。動いて見える超音波断層装置ができるまでは、ほとんどの人々はそのように信じていました。だから、流産の予防には安静が必要であり、黄体ホルモン剤や、ヒト胎盤性ゴナドトロピン(hCG)の投与により流産は予防できると信じられていました。現在でもこれらの薬剤の効能・効果には切迫流産の記述があります。わが国で電子スキャン超音波断層装置が実用化したのは1976年のことです。それ以後、妊娠初期流産の大部分は胎芽・胎児死亡が先行している事が現実のものとして理解されました。黄体ホルモンやhCGが切迫流産に効果があるとされた根拠は流産の予後不良例の血中の黄体ホルモンやhCG値が低い事が知られていたためですが、電子スキャン超音波断層装置は、hCGや黄体ホルモン値が低いのは胎芽死亡の結果であることを証明しました。
妊娠初期の胎児死亡の多くの原因は、妊娠した卵の致死性の染色体異常に基づくものだと言う事が、判っています。健康な母からも、たまたま染色体異常の妊娠卵は発生します。従ってすべての妊娠のある程度は、確率的に流産にいたるので、一度流産をしたからといって、悲観的になる必要は全くありません。